「プリキュア!ハッピーシャワー!」「ぐあー」「えー、先生ちがーう!
ちゃんと『あかんべぇ~』っていってよー」
買い物がてら、近所の幼稚園の横を通り過ぎようとして聞こえてきたのは、幼稚園児と先生の会話だった。ちょうど幼稚園の昼休みの時間帯だったのか、たくさんの園児がグラウンドで遊んでいる。
プリキュアという単語に思わず反応してしまい、門の外からそっと彼らの様子を伺う。
「ごめんねー、先生プリキュア見ないんだよね」
「つまんなーい、〇〇ちゃんあかんべぇやって!」
「やだー、わたしキュアビューティーだもん」
仲間割れだ。ピンクと青がお互い譲らない。他の色はどうした!と門の向こうに目を凝らすが、仲間らしき子たちは見当たらない。先週5人そろったばかりじゃないかと思ったが、きっと何か事情があるのだろう。
(まずい、このままでは楽しい昼休みがBAD ENDに終わってしまう・・・・・・!)
震える足をピシャリと叩き、私は立ち上がった。
「ひーっひっひっひ!プリキュアなんて所詮子供だましだわさ!こんなお遊びは終わらせてやる!!」
固まるキュアハッピー、冷やかな視線のキュアビューティー、彼らの背後にたたずむ偽あかんべぇ(先生)。
やばいやばいやばいすべったどうしよう何してんだ通報されるぞおい!
敵役をかって出てみたもののどう見ても不審者だ、このままだとリアルにBAD END、助けてプリキュア!と冷や汗が背中を伝う。
偽あかんべぇが「あの・・・・・・」と口を開きかけ、もう駄目だと思った次の瞬間だった。
「かかっていらっしゃい、BAD ENDになんてさせませんわ!」
はっ、と顔を上げると、キュアビューティーがズビシとこちらを睨みつけ戦闘態勢に入っているではないか!さすが青、飲みこみの速さは次元を超えている!!と感動に浸る間もなく「そうよ、みんなのハッピーを守るんだから!」とピンクも参戦。なかなか訓練されたプリキュア達だ。
「そうはさせないだわさ!いでよ、あかんべぇ!」
「あかんべぇ~」
ザ・一人二役。偽あかんべぇに本物の威力を見せ付けてやるのだ。意気揚々と舌を出し渾身の変顔でガニ股立ちをする。浄化されるにふさわしいいで立ちである。
「気合いだ気合いだあああああ!」
「くっ、いきますわよ」
青とピンクが力をため始めた。しかし。
「ひーっひっひっひ、たかだか二人なんかで倒されるあかんべぇではないだわさ!」
甘く見てもらっては困る、こちとら22歳のあかんべぇだ。たかだか幼稚園児二人ごときに倒されるようなヘタレではない。二人の表情が一瞬曇る。
「みゆきたち、ウチも戦うで!!」
絶賛チャージ中の二人の後ろから現れたのは、あかね・・・・・・と、やよい、なおの三人(に扮する幼稚園児)だった。今まで一体どこに隠れていたのか。ともあれ、5人そろったようだ。そして彼らは各々奇声をあげながら力をため、
「「「「「プリキュア!」」」」」
「ハッピーシャワー!」
「サニーファイアー!」
「ピースサンダー!」
「マーチシュート!」
「ビューティーブリザード!」
「あかんべぇ~」
必殺技により、私は浄化された。
がくっとその場に倒れこむ私。手を取り合い喜ぶプリキュア達。倒れつつ、こみ上げてくる達成感に笑みをこらえていると、偽あかん、違う、先生が、満面の笑みで手を差し出してきた。門越しに。
「ありがとうございます。突然のことで驚いてしまいましたが、園児たちも大喜びです」
立ち上がると、ぴょんぴょんはねてよろこぶプリキュア5人の後ろに視聴者(外野園児)たちが目をキラキラさせている。どうやらウルトラハッピーな幼稚園の昼休みは守られたようだ。
「いえ、こちらこそ急にすみませんでした」
門越しに先生と握手をし、プリキュアたちを見ると「おねえちゃんありがとう!」と言って手を差し伸べてきた。相変わらず門越しだが、彼らの小さな手を一人ずつ優しく握り、では、と言って私はその場を後にした。スーパーへ行って今日の夕飯の買い出しである。
数日後、地方紙にこのことが載りうっかり有名人になってしまい、あかんべぇとして幼稚園めぐりをすることになってしまったのはまた別の話。
っていうのを今日お風呂で考えてた。やりたい。